2017年12月23日土曜日

生きづらさの心理学①―モヤモヤとは何か


文体がかみ合わず、ボツになった原稿を以下にリサイクルしています。
生きづらさとは何かについて、少しでもお役に立てば幸いです。


1-1.モヤモヤとは何か?


 生きづらさとは何か。
 これがこの本の問いです。
そう問うことによって、生きづらさの根底で「ひそかに自分が嫌い」が深く絡み合っていることを明らかにしていこうと思っています。

だけど、突然結論に向かうのではなく、
準備運動から始めましょう。
読者の皆さまと歩調を合わせたいところですから、
まずは「生きづらさ」とは具体的にはどんなものなのかを示しておこうと思います。
それについて、私は次の通りに考えます。

 生きづらさとは、慢性的にモヤモヤしてしまうことである。

ここでのポイントは「慢性的」と「モヤモヤ」の二つです。
大事なところですから、一つずつ確認していきましょう。
まずは「モヤモヤする」から始めてみたいと思います。


「モヤモヤする」は便利な言葉

実はこれ、カウンセリングで最頻出の言葉のひとつです。
 なぜかというと、「モヤモヤする」ってとても便利な言葉だからです。
 その理由は二つあります。

一つ目の理由は、「モヤモヤ」という言葉には、
様々な気持ちを自由に詰め込むことができる、という点にあります。

ほら、「モヤモヤする」と言うだけで、怒りも、嫌悪感も、悲しみも、傷つきも、不安も、すべて表現することができますよね。

そう、この言葉を使うことで、今自分が感じているなんとなく嫌な感じを他者とシェアすることができるのです。
 
これはとても大切なことです。しんどいときに、そのことを誰かに伝えることができると、そのしんどさは少しやわらぐからです。
「モヤモヤする」はそれを可能にしてくれる便利な言葉だと言えます。

 もう一つの理由は、「モヤモヤする」という言葉が、自分が怒っているのか、嫌悪感を持っているのか、悲しいのか、傷ついているのか、不安なのかをハッキリさせないままにしてくれる、というところにあります。

 確かに、しんどいときに人に「しんどい」と言えると楽になります。だけど、どういう風にしんどいかをきちんと説明するのって、実はかなりしんどいことです。

 まず、自分の感じていることを、人に伝わるように説明するのはとてつもなくエネルギーが必要です。それがうまくできなくて、私たちはしばしば追い詰められます。

そして、なにより「何が辛いのか」を自分でよくよく見てみること自体が辛いことです。混乱した状態で、自分を混乱させた人や事件を思い浮かべるって、本当に大変なことです。

だから、「ひどいことをされて傷ついている」とはっきりさせるより、「モヤモヤする」という曖昧な言葉でウヤムヤにしておく方が安全なのです。

「モヤモヤする」って便利な言葉です。

この言葉は、苦しさを表現するとともに、その苦しさが何であるのかを曖昧にしてくれます。

そうやって、私たちは自分を守りながら、人と繋がることができるのです。

だけど、実はこの便利さには罠も潜んでいます。ただ、それについてはこの本の後半で詳しく説明するとして、話を前に進めましょう。

じゃあ、モヤモヤとは何か?
 ここが問題です。

生き方と環境の不一致
モヤモヤはどこからやってくるのでしょうか?
この点について、私は次のように考えます。

モヤモヤするのは、私たちの生き方と実際に生きている環境にズレがあるときである。

 そう、「生き方と環境の不一致」がモヤモヤを作りだす。
 重要なことなので、少し詳しく説明したいと思います。

 人生は思い通りになりません。本当に思い通りになりません。

 私は30年ちょっと生きてきただけですけど、このことだけは自信をもって「確かなことだ!」と言うことができます(大きい声で叫びたくなります)

 受験をしたら失敗し、就活でも何度も悲しい思いをします。いざ就職しても、やりたい仕事とは別の仕事を任されて、やりたかった仕事をしてみても思っているほどには結果が出せません。

同僚や友達からはよく誤解されるし、家族や恋人は自分のことをわかってくれません。

大吉を当てたくておみくじに挑むも、引くのは末吉ばかりだし、駅のホームに着くと電車は行ってしまったところです。
 
 もちろん、ごくごく稀にラッキーなことだって起こりますけど、大体のところ思い通りにいかないことに囲まれているのが、私たちの人生ですよね。

「思い通りにいかない」とは、私たちが心の中で抱いていることが、現実とズレをきたしているということを意味しています。

 現実は心が思い描くようにならない。
 環境は私たちの求めるものを与えてくれない。
 
 そういうことが人生には何度も起こって、その都度、私たちは傷つきます。小さく傷つくこともあれば、深く傷つくときもあります。
 
 もちろん、世界が自分を中心に回っていないことくらい、みんな分かっています。

 だけど、それでも、「思い通りにいかない」とき、私たちは小さく傷ついてしまう。
 わかっちゃいるけど、心は言うことをきかない。それが心というものの厄介な本性です。

 ここです。ここから、モヤモヤが発生します。

 ホームに着くと電車が行ってしまったところだったというとき、私たちの生き方と環境はどこかズレています。
 もう少し早く家を出るか、駅まで走ればいいのでしょうが、それはそれでそうもいかない事情があるものです(たとえば、子供を保育園に送らなきゃいけないとか)

 同じように、やりたい仕事をやりたいようにできればいいのですが、そうもいかない事情というものがあって、それはしばしば自分ではどうしようもない経緯でそうなっています。

 生き方と環境がズレる。だから、日々小さく傷つく。そして、その小さな傷つきがモヤモヤの種になる。

《続く》

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